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ミツケン大家新聞 第6号 空き家活用 和田貴充 取締役会長・ファウンダー

日本全国の空き家所有者の相談を受ける空き家活用(東京都港区)。全国各地の自治体と提携し、空き家問題の解決に取り組んでいる。一民間企業がどのように行政を巻き込み、課題解決へと挑んでいるのか。和田貴充会長に話を聞いた。

「日本中に軍艦島をつくろうとしている」――こう言われたことが原点

谷村:本日は大阪まで戻ってきていただき、ありがとうございます。和田さんとは経営者の勉強会で定期的にお会いしていますが、事業について詳しく伺うのは初めてかもしれません。まず、空き家活用を立ち上げた経緯を教えてください。

和田:亡き父親が興した会社を廃業後、新築分譲住宅の営業に携わっていました。自分に合っていたのか、営業責任者まで務めました。2010年には、大阪市で戸建て分譲を手がける株式会社オールピースを設立。その頃、経営者勉強会の行事で軍艦島を訪れたんです。そこである方から、「君たち、日本の不動産・建築業界は、日本中に軍艦島をつくろうとしている」と言われたんです。これまで良かれと思ってやってきた新築分譲が、果たして正しいのか…。価値ある地域が空洞化し、やがて廃墟になる未来を想像して、危機感を覚えました。そこで2014年に空き家活用を立ち上げました。



谷村:衝撃的な言葉ですね。日本には「新築信仰」なんていう言葉があるくらい、マイホームへの憧れは未だなお、根強い。一方で、空き家約900万戸あり、2030年以降には約2000万戸に増加するという予測もあります。

炭鉱の島として繫栄していた軍艦島(正式名称:端島)。閉山に伴い、無人島となり現在、老朽化が進む



和田:空き家の多くは、所有者の高齢化で施設への入居や死去により、住む人がいなくなって放置された結果です。どうすればよいかわからず、意思決定できないまま、不動産会社に相談するのも億劫で、先送りになることが多い。だからこそ、空き家を流通・活用させるための相談窓口と仕組みが必要だと考えました

谷村:空き家の事業といっても、さまざまなアプローチがありますが、貴社の具体的な取り組み内容について教えてください

「空き家」の相談窓口&自治体への支援

和田:①空き家所有者の相談窓口 ②自治体向け空き家対策支援サービス の大きく2つを大きな柱としています

まず、①の空き家所有者の相談窓口では、所有者からの相談を受け、空き家を売りたい場合、複数の不動産会社をご紹介して見積もりを出してもらい、所有者に選定してもらっています。また、空き家をリフォーム、リノベーションされたい場合も同様、改修会社を複数社ご紹介して相見積もりを取ってもらう形を取っています。

田舎の空き家のイメージ
インバウンドやコロナ禍により、田舎の魅力が発掘されている

⼭間の空き家、サウナ付貸し別荘にリノベ~年間売上800万~

谷村:それは所有者にとっても安心ですね。紹介された1社に丸投げされるより、公平性が感じられます。工事会社の立場で申し上げると、やはり相見積もりは確実に取った方が良いです。その上で、見積書の内容が細かく書かれているか、説明が丁寧かどうか、そして実際にリフォームが始まった後に進捗状況をきちんと伝えてくれるか。さらに、アフターフォローがしっかりしているかどうか。このあたりが、会社を選ぶうえで非常に重要なポイントだと思います。工事に限らず、どの業種にも言えることですね。これまで、相談を受けた中で印象的だったエピソードはありますか。


和田:山梨県の山間の借地を400万円で購入され、リノベーション費用1100万円を費やしてサウナ付き貸別荘にされた方がいらっしゃいます。そこは年間の売上が800万円で、オーナーと所有者とで折半しているとお聞きしました。

谷村:空き家が「資産」に変わる瞬間ですね。「都会も良いけど田舎の自然豊かな場所」がインバウンドやコロナ禍で、魅力が発掘されたように感じます。空き家という空箱が中古物件として提供されたり、賃貸だったり、あるいは、民泊などの用途に変わるー。点だった箱が、線や面になって、人を呼び込む拠点になることもあると思います。大阪府松原市の空き家を購入しましたが、修繕して利回り20%ほどで稼働しています。私のような不動産投資家が空き家に目をつけているため、所有者が今まで価値がないと思っていた物件も、資産になるケースはさらに増加しそうですね。とはいえ、民間の力だけでは限界もありますよね。国や自治体主導で対策しなければ、本当の意味で地域創生には繋がらないのではと感じます。

和田さんのYouTube「ええやん!空き家やんちゃんねる」。総動画再生回数1200万回超


和田:ご指摘のとおり、民間が地域活性化を実現するには限界があり、行政がインフラであるため、基盤であるべきだと考えています。だからこそ、当社では自治体に対して空き家の実態把握からデータ管理、相談対応、活用促進まで一気通貫する「アキカツ自治体サポート」を手掛けています。具体的には、以下の3つのサービスです。

全国60の自治体と連携~伴走者として取り組み~

1.空き家情報をクラウド上でデータ管理・共有できるSaaSツール「アキカツ調査クラウド」


2.自治体内に相談対応窓口を設置する「アキカツカウンター」


3.自治体の空き家情報を活用希望者へマッチング・発信するプラットフォーム「アキカツナビ」です。


これまでに全国60の自治体と連携しています。最初のきっかけは大阪市住吉区に声掛けいただき講演したのがきっかけで、埼玉県大里郡寄居町(よりいまち)と提携し、つづいて東京都世田谷区とも協定できたことで他の自治体にも広げていくことができました。ただし、これらのツールを導入するだけでは意味がなく、我々はあくまで「伴走者」として、自治体と一緒に取り組んでいくことを大切にしています


谷村:自治体が本気で動くからこそ、民間も安心して空き家に投資できる。最近では、空き家投資専用のローンも出てきたと聞きますが、空き家を活用するには、金融リテラシーの底上げも必要だと感じます。和田さんは今後、どのような未来を目指しているのでしょうか。

和田:2024年からはオリエントコーポレーションと提携し、空き家活用ローン「アキカツローン」の取り扱いを開始しました。そのほか、空き家ビジネスに取り組んで10年、ようやくこの分野に取り組む企業も増えてきました。ライバルではなく、パートナーとして肩を組みながら、業界全体を底上げしていきたい。将来的には、IPO(株式上場)を視野に入れつつ、自治体・事業者・市民が自然に連携し、空き家が地域のチャンスになる社会を創り、家と家、人と人、家と人を結ぶ。それが当社が目指す未来です。

「アキカツローン」の仕組み



谷村:投資家の立場で空き家に関わってきましたが、話を聞いて改めて「空き家はチャンスの宝庫」だと感じました。可能性はまだまだ広がっていきそうですね。ぜひ、一緒に面白い仕掛けをつくっていけたらと思います。本日はありがとうございました。

谷村:工事業はレッドオーシャン市場ですが、コミュニケーションを取ってお客さんのニーズに応えられる、根本的に解決策を考えることができる会社が生き残ると感じています。そのためにも今年度から社内外の人材育成やマネジメントを強化していく予定です。工事に限らず、困ったら「ミツケンに相談しよう」と思ってもらえるよう、努めてまいります。本日は長時間、ありがとうございました。

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プロフィール

空き家活用 和田貴充 取締役会長・ファウンダー

大阪府摂津市出身。1976年生まれ。
20歳のとき、父親の他界により事業継承するが、4年で廃業する。新築分譲の営業責任者を経験後、 2010年、戸建分譲を手掛ける株式会社オールピース(大阪市)を設立。2015年、空き家問題を解決しようと、空き家活用株式会社(東京都港区)を立ち上げる。全国で空き家の大相談会など啓蒙活動を行っている。空き家情報を発信するYouTube「ええやん!空き家やんちゃんねる」は、チャンネル登録者約59,000人超。総動画再生回数1200万回を突破

ミツケン 谷村充功代表

八尾市出身、富田林市育ちの1977年2月生まれ。一男二女の大黒柱。
株式会社ミツケンの代表を務め、木造3棟、区分1室の家主としても活動している。
保有資格は、二級建築士、一級施工管理技士、CPM、CCIM

所属する大家の会:元気が出る大家の会、CGS、PIC、がんばる大家の会、ドリーム家主倶楽部、不動産経営研究会ほか

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