目次
対談
コラム【防水工事シリーズ②】ウレタン防水と塩ビシート防水の工程・メリット・選び方
この記事を監修したのは…
前回の「マンション防水工事の全体の流れ|施工管理が語る6つのステップに引き続き
株式会社ミツケン 施工管理課 嘉数 智彦(かかず ともひこ)
まず知っておきたい基本の「キ」
ウレタン塗膜防水とは?
液状のウレタン樹脂を塗り重ねて防水層を形成する工法。
「塗る」工法なので、複雑な形状や狭い場所、設備が多い場所でも柔軟に対応できるのが特徴です。


塩ビシート防水とは?
塩ビ樹脂のシートを、床に敷設して防水層を形成する工法。
「シートを敷く」工法なので、品質が安定しており、短工期で仕上がりやすいのが特徴です。


ウレタン塗膜防水の施工工程と特徴
「ウレタンは下地が命」
ウレタン防水でいちばん大切なのは「下地の状態」です。どれだけ性能の高い塗料を使っても、下地が整っていなければ、あとから膨れたり剥がれたりといった不具合が出やすくなってしまいます。
共通の工程「下地づくり」
ウレタン塗膜防水には密着工法と通気緩衝工法の二つがあります。
それぞれ工程が違うのですが、共通して行われるのが「下地づくり」という工程です。

清掃・ケレン作業
下地がザラザラ、デコボコのままでは、ウレタンを塗っても密着しません。
既存の防水層に付着した汚れ、コケ、劣化した塗膜などを高圧洗浄やケレン(削り作業)で徹底的に除去します

不良部補修(下地補修)
- コンクリートのひび割れをエポキシ樹脂やシール材で補修
- 欠損部分をポリマーセメント系の補修材で埋める
- 既存の防水層の浮き・膨れは処理

プライマー塗布
コンクリートや既存防水層と、これから塗るウレタン防水材を密着させるための「接着の下地」になります
A.密着工法
既存の下地に、ウレタン防水材を「べったり」と密着させるシンプルな工法です。
施工が向いている場所
- バルコニー、ルーフバルコニー
- 面積が小さい屋上(50㎡以下程度)
- 設備が多い場所、複雑な形状の場所
- 下地が十分に乾燥している場所

塗料を塗る作業は簡単そうに見えて実はとても繊細で職人技が光る作業。
塗る量や重ね方で膜の厚みが決まり、その厚みが防水性能に直結します。
だからこそ、同じ工法でも 下地をどれだけ丁寧に整えられるか、必要な膜厚をきちんと確保できるか、端部の納まりをどれだけきれいに処理できるか…このあたりに職人の技術がしっかり表れるんです。
言い換えると、ウレタンは「扱いやすさ」と引き換えに、現場での施工精度が品質を左右しやすい工法。
だからミツケンでは、下地処理の段階でしっかり打ち合わせと確認を行い、工程ごとの写真記録やチェックを通して、性能がきちんと出る施工を徹底しています。
密着工法の施工工程

ウレタン主材の一層目を塗布
※写真はイメージです

ウレタン主材の二層目を塗布
※写真はイメージです

トップコート塗布
※写真はイメージです
経年劣化が進んでいる箇所や、軽度なひび割れがある部分に対して補強のために、メッシュシート(補強クロス)の貼付けを
行うこともあります。
B.通気緩衝工法
下地とウレタン防水層の間に「通気緩衝シート」を敷設して、下地から発生する湿気を脱気筒から外部へ逃がす工法です。
施工が向いている場所
- 屋上などの大面積の場所
- 下地に水分が含まれていそうな場所
- 雨漏りが長期間続いてた建物
- 日当たりが悪く、乾燥しにくい環境

通気緩衝工法の施工工程

通気緩衝シート(絶縁層)の敷設

脱気筒の設置
(10~20㎡に1箇所程度)
脱気筒の設置後は、密着工法と同じ流れで進んでいきます。
密着工法vs通気緩衝工法 どっちを選ぶべき??
ここまで、二つの工法の特徴や違いを説明しましたが、大家・オーナー目線で考えると、仕上がった見た目もほぼ変りませんし
中の構造が分かりづらいぶん「同じウレタンなら、どっちでもいいのでは?」「コストが抑えられた方がうれしい」と感じるのは当然だと思います。

予算重視で密着工法を選ぶのは危険
短期的な費用だけ見ると、密着工法のほうが安く仕上がります。
ただ、下地の状態があまり良くないのに密着を選んでしまうと、あとから塗膜が膨れたり浮いたりするリスクが高くなります。
そして数年後に膨れが出て、結局またやり直しに…。
そんなふうに「補修→再工事」を繰り返してしまうと、トータルではむしろ高くついてしまうこともあるんです。。
既存防水層との相性問題
ゴムシート防水×ウレタン防水は要注意
既存の防水がゴムシート防水(クロロプレンゴムシート、EPDMシートなど)の場合、その上にウレタン防水を施工すると相性が悪いケースがあります。
というのも、ゴムシートに含まれる可塑剤(柔らかさを保つ成分)が、ウレタンと化学反応を起こしてしまい、硬化不良や密着不良につながることがあるためです。
塩ビシート防水の工程と特徴
塩ビシートも改修工事でよく採用される工法です。ここでは、機械的固定方を中心にお話します。
プラスチックの一種である塩化ビニル樹脂でできたシートを使用しており、高い防水性があることで知られています。
ゴムシートを使用した防水もありますが、耐久性や密着性や高さから、近年では塩ビシート防水が主流となってきています。
接着剤を使用した「接着工法」と、金具でシートを固定する「機械的固定工法」の2種類があります。
建物の構造や下地、既存防水層の状態、そしてご予算に合わせて工法を決めていきますが、一般的には機械的固定工法のほうが単価は少し高めです。
ただその分、耐久年数が3〜5年ほど長くなるケースが多いので、
「できるだけ長く安心して持たせたい」「次の修繕までのスパンを延ばしたい」といった長期目線で考えるなら、有力な選択肢になります。
機械的固定工法とは?
下地にディスクやアンカーといった専用金具を打ち込み、そこへ塩ビシートを敷いて熱風で溶着していく工法です。
点で固定する仕組みなので下地の影響を受けにくく、既存防水層を全面撤去せずに施工できるケースが多いのも特徴です。
施工が向いている場所
- 屋上など、平らで広い面積の場所
- ベランダなどの設備が少ない、シンプルな形状の場所
- 下地の状態が不明で、リスクを避けたい場合
- 短工期で仕上げたい場合
- 最上階が居室ではない、または音・振動の配慮ができる場合

塩ビシート防水(機械的固定工法)の工程

下地処理(清掃・ケレン作業)
突起や鋭角部などシートを傷めそうな箇所を処理します
清掃補修は必須ですが、ウレタンほど厳密な下地処理は
不要です

緩衝材(マット)の敷設
既存層と新設シートの間に緩衝材を敷いて、緩衝を抑えます
既存防水層の凹凸を吸収し、新設シートを保護する役割もあります

固定用ディスク・アンカーの打ち込み
躯体にディスクを点で固定していきます
この工程で音と振動が出るため、最上階住戸への事前告知が必要です
固定間隔は、風圧や建物の高さによって変わりますが、1㎡あたり4~6か所程度です

塩ビシートの敷設・熱風溶着
シートを敷き、熱風溶着機でつないでいきます
溶着の重要性について
シートの重ね部分を、約200~300℃の熱風で溶かして接合します。
溶着が甘いと、その部分から水が浸入するため、温度管理と圧力管理が重要です。
溶着後は、ビール試験(接合部を引っ張って剥がれないか確認する試験)で品質をチェックします。

端部押え・シール・役物納まり
取り合い部分や、端部への処理を丁寧に行います
役物納まりの難しさ
ドレン、配管、空調室外機の基礎、パラペット(手すり壁)との取り合いなど「平場以外の部分」の納まりが、塩ビシートの難しいところです。設備が多い屋上だと、役物納まりが複雑になり、不具合の温床になることもあります。
最後に、溶接部分の確認、目視・流水確認などを行います。
ウレタンvs塩ビシート、結局どっちを選ぶ?
ここまで、ウレタン防水と塩ビシート防水について紹介してきました。
防水工事の工法選びに、「これが絶対に正解」というものはありません。
コスト、建物の状態、今後の使い方によって、最適な選択は変わってきます。
- 建物の状態(下地の含水、既存防水の種類)
- 形状・設備の複雑さ
- 面積
- 住環境への配慮(音・振動・におい)
- 工期・予算
- 今後の建物の使い方
これらを総合的に判断して、その建物にとっての最適解を見つけることが大切です。
迷ったときは「併用」を検討する
平場は塩ビシート、複雑部はウレタン、という併用は、実はとても合理的な選択です。それぞれの工法の強みを活かして、弱点を補い合うことができます。
「安さ」だけで選ばない
予算は大事ですが、「安さ」だけで工法を選ぶと、後々トラブルになることがあります。現場の状態をしっかり見極めて、根拠のある仕様を選びましょう。
防水工事をご検討中の方へ
「うちの建物には、どの工法が合っているんだろう?」と感じたら、まずは一度、現地調査から始めてみてください。
建物の状態や既存防水の種類、今後の運用(どれくらいの期間持たせたいか など)をお伺いしたうえで、最適な工法をご提案いたします。無駄な工事を避けて、本当に必要な工事だけを行うことができれば、コストを抑えながら、建物を長く守ることができます。
ご不明な点やご相談があれば、どうぞお気軽にお問い合わせください。
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プロフィール
嘉数 智彦
塗装20年、防水10年と、この道30年の現場経験を持ち、現在は施工管理を担当。
これまで培ってきた豊富な経験と専門的な知識を活かし、建物の状態を的確に見極めたうえで、最適な施工品質の維持・向上に努めています。
また、職人時代から変わらず「現場はチームでつくるもの」という思いを大切にし、職人・管理者・お客様が安心できる現場づくりを心がけています。
塗装・防水工事をはじめとする建物修繕の分野で、今後も「確かな技術」と「誠実な対応」を通じて、長く信頼される仕事を続けてまいります。
保有資格:一級建築施工管理技士、一級塗装技能士、一級防水技能士、雨漏り診断士
株式会社ミツケン
大阪と東京を拠点に、マンション・ビルなどの大規模修繕工事・改修工事を手がける専門会社。
建物の調査・診断から、施工、アフターフォローまでを一貫して行っています。
オーナー・管理会社・入居者、それぞれにとって安心できる修繕を目指し、施工会社としての視点に加え、大家さん・CPM(不動産経営管理士)の視点から、本当に必要な工事だけをご提案できることがミツケンの強み。
長年のご縁に支えられ、リピート率は80%超。これからも誠実で正直な姿勢で、大家目線の安心できる修繕を行ってまいります。