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対談
ミツケン大家新聞 第2号 ヒラク・ドリーム家主倶楽部代表 加藤薫さん

築古物件を扱う家主の会に衝撃を受け――辞めていたかもしれない不動産業
谷村:このたびは「大家新聞」のインタビューに応じてくださり、ありがとうございます。本日は加藤さんの賃貸経営に対する想いや、建物の修繕工事をさせていただいた経緯などについてお聞きしたいと思います。
加藤:大学がアメリカだったので現地に残って就職しようかなと考えましたが、やはり母国である日本のほうが合っていると思い、帰国して不動産売買・仲介会社に就職しました。その後、父親が経営する不動産会社、ヒラクに入社しました。当時は売買仲介を主軸に、賃貸仲介・管理、新築、リフォームなど幅広く手掛けていました。しかし、名が知れた大手不動産会社が群雄割拠し、中小零細企業である当社が打ち勝っていけるのか先行き不安でした。
谷村:元々は売買仲介がメインだったんですね。家主業は、どのタイミングで始めようと思ったのですか。

加藤:今から15年ほど前、不動産会社として管理物件をお預かりしていたことから、「家主さんは別格で、ただただすごい」と感じていました。そんな中、「ひよこ家主の会」という家主の会に参加させてもらったところ、ほぼ全員が一般の大家さんで、信じられない価格で物件を取得して築古物件の再生を活発にしている様子を見て衝撃を受けました。その後、神戸市内の再建築不可のアパートを購入したのを皮切りに増やしていったという流れです。振り返ると、賃貸業をしていなかったら、不動産会社を辞めていたかもしれません。
谷村:今では不動産投資は、ブームと化していますし、家主の団体も、雨後の筍のように次々と発足していますが、まさしくその会は、パイオニアと言える存在ですね。加藤さんは2011年、私も所属させていただいている「ドリーム家主倶楽部」を設立していますが、どのような背景があったのですか。
「物件の仕入れ」の壁にぶつかり、家主の会結成
加藤:家主業は、仕入れからリフォーム、入居付け、税務まで全てしなければならず、不動産について一通り学ぶことができる事業ではあります。ただ、仕入れについては1人孤独に家主業をしているだけでは購買力が低いので物件情報がほとんど入ってきません。そこで、仲間を集めて企業のように同じ名刺を作って、仲介会社などに配布して回って、みんなで物件を買うというスタイルを思いついたんです。それが「ドリーム家主」のスタートです。始めは数人だったメンバーは今では500人超となりました。

初投資は築古戸建てから始めるべき~失敗しない家主業の第一歩~
谷村:ドリーム家主俱楽部では、これから物件を購入する人、ベテランオーナーなどさまざまな投資家が集まり、皆で実際販売されている物件を見に行ったり、メンバーが購入した物件の再生プロセスや客付けなど、リアルで身近な仲間からレクチャーしてもらったりできるので、本当に勉強になると感じています。加藤さんの「初投資は築古戸建てからスタートせよ」という法則を守り、初めて購入した物件は大阪松原市のテラスでした。そこから文化住宅、アパート、東京のタワーマンション区分と少しずつですが、増やしていっています。

加藤:「初投資は築古戸建てから」というのは、築古は手頃な金額で購入できるうえ、大家として必要なスキルや基本的な考え方を低リスクで経験することができるので、家主業を始める人にそのようにお伝えしています。というのは、賃貸経営をしたことがない人も、規模が大きい物件に目を向けがちで、手を出したらいけないような物件を購入してしまい、負の連鎖に陥った人を幾度と見てきました。だから口酸っぱく言うようにしたのです。
谷村:賃貸経営は物件問わず、すべきことは同じですが、やはり基礎から学ぶことが大事ですね。築年数が古い戸建は白アリや雨漏りの発生、湿気など建物にまつわるさまざまな問題も把握することができます。また、購入金額的に破産などお手上げ状態になることはほとんど考えにくいですしね。
加藤:賃貸業は不動産投資ですが、家主業という経営者としてのスタンスを知らないまま、ただ単に投資と解釈すると危険な目に遭います。そこを理解してからアパート、マンションなど、ある程度規模がある物件を所有をしていけば家主として事業拡大します。日本製鉄の橋本英二社長が新入社員へのメッセージで、行動や実践を通して知識や精神を磨きあげることを意味した王陽明の言葉「事上磨練」について伝えていらっしゃいましたが、家主業もまさしくその通りです。私自身は、始めに購入した激安築古アパートで勉強して、その後、アパート、マンションの保有へ進み、現在、ビル、シェアハウス、民泊、太陽光、駐車場なども組み合わせて所有しています。
物件を所有するか否か、工事の「目的」をヒアリング
谷村:ところで雨漏りといえば、3年前に防水工事をさせていただきました。ここから少し工事の話に移っていきたいと思います。建物は、大阪市淀川区・三国の5階建て鉄骨造・賃貸マンションでしたね。


加藤:あの物件ですが、実は購入する人が決まっていて、転売する予定だったんです。ところが、雨漏りが発生しているなどさまざまな問題が見つかったので自社所有することにしたんです。築30年ほどで1階から3階のタイル面でに雨漏りしていました。谷村さんに見てもらったら、この先所有するのかどうかをまず始めに聞かれました。そのような投げかけをされたことに「他の工事会社とは観点が異なるな」と感じました。
谷村:工事会社は「施工してなんぼ」なので、オーナーとは利益相反します。ですが、お客さんが「工事をする目的」が大事であり、その方の利益が最大化されないならば「工事をしない」という選択肢もあり得ると思っています。この視点に立つことができたのは、自分自身が家主になり、修繕会社の経営者であり、プロパティマネジメントの最高峰資格といわれるCPM(Certified Property Manager®・米国不動産経営管理士)を勉強したからだと自負しています。この賃貸マンションについて、しばらくは所有しておくとお聞きしたので、雨漏り発生箇所や経年劣化した箇所は直したほうが良いため、「タイル面漏水修繕工事」ならびに「部分改修工事」をご提案しました。


加藤:家主の立場が理解できて修繕してくれるのは重要ですね。それに加えて、やはり谷村さんやミツケンのスタッフの人となりが現れているのだろうと実際施工してもらって感じました。例えば、工事の依頼さえしていない段階から親身に相談に乗ってくれたり、見積書に記載されてない箇所を塗装してくれたりと、一安心できるというか、頼んで良かったと単純に思いましたね。ミツケンさんには、工事会社にとどまらずに驀(ばく)進していただきたいです。
谷村:工事業はレッドオーシャン市場ですが、コミュニケーションを取ってお客さんのニーズに応えられる、根本的に解決策を考えることができる会社が生き残ると感じています。そのためにも今年度から社内外の人材育成やマネジメントを強化していく予定です。工事に限らず、困ったら「ミツケンに相談しよう」と思ってもらえるよう、努めてまいります。本日は長時間、ありがとうございました。
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プロフィール

ドリーム家主倶楽部・ヒラク 加藤薫代表
伊丹市出身。1969年12月9日生まれ。米国の大学を卒業後、不動産売買・仲介会社に就職。その後、父親が経営するヒラクに入社し、幅広い実務を経験する。代表となってから、物件取得に注力。賃貸住宅、ビル、民泊、シェアハウスなど200戸所有している。2011年、「ドリーム家主倶楽部」を発足。会社員から経営者など500人超が所属している

ミツケン 谷村充功代表
八尾市出身、富田林市育ちの1977年2月生まれ。一男二女の大黒柱。
株式会社ミツケンの代表を務め、木造3棟、区分1室の家主としても活動している。
保有資格:二級建築士、一級施工管理技士、CPM
所属する大家の会:元気が出る大家の会、CGS、PIC、がんばる大家の会、ドリーム家主倶楽部、不動産経営研究会ほか