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コラム【防水工事シリーズ①】マンション防水工事の全体の流れ|施工管理が語る6つのステップ

「防水工事って、実際どんな流れで進むの?」「何を準備しておけばいいの?」そんな疑問をお持ちのオーナー様や管理会社の方は多いと思います。 今回は、マンションやビルの防水工事が、実際にどのような流れで進んでいくのかを、現場目線で詳しくお話しします。

この記事を監修したのは…

  

株式会社ミツケン 施工管理課 嘉数 智彦(かかず ともひこ)

  

ミツケンで施工管理を担当しており、外壁や防水、塗装などの品質管理や、

  

オーナー様・管理会社様との打ち合わせまで幅広く携わっています。

  

マンションの防水工事の全体の流れは?

防水工事は6つのステップで進みます

  

マンション・ビルの防水工事は、大きく分けて以下の6つのステップで進んでいきます。

  

  1. 1.現地調査
  2. 2.工法・仕様の決定
  3. 3.契約・着工前の準備
  4. 4.実際の施工
  5. 5.検査・引渡し
  6. 6.アフターフォロー・メンテナンス

  

それぞれのステップで何が行われるのか、どんな準備が必要なのか、順を追って見ていきましょう。

①まずは「現地調査」からスタート

防水工事の第一歩は、現地調査です。

  

建物がどんな防水層で守られているのか、どれくらい劣化しているのか、雨漏りの原因はどこにあるのか。こうした状態を正確に把握することが、適切な工事の提案に繋がります。

  

  • 既存防水層の種類(ウレタン、アスファルト、シート防水など)
  • 劣化状況(ひび割れ、膨れ、シートの破れ、トップコートの剥がれなど)
  • 排水の状態(ドレン周りの詰まり、水たまりの有無)
  • 雨漏り箇所の特定(室内での雨漏り位置と、屋上での原因箇所の関連性)
  • 立ち上がり部分や端部の状態(壁との取り合い、配管周りなど)

  

目視での確認に加えて、必要に応じて打診検査(ハンマーで叩いて浮きを確認)や、含水率の測定を行うこともあります。

  

オーナー様にご準備していただきたい3つのこと

  

調査をスムーズに、かつ正確に進めるために、以下の3点をご用意いただけると非常に助かります。

  

1. 雨漏りの有無(いつ・どの場所で発生しているか)

  

「3階の居室で、雨の翌日に天井から水が滲む」「台風の後、北側の壁に雨染みができる」といった具体的な情報があると、原因箇所の特定がしやすくなります。

  

雨漏りの時期(梅雨、台風時、長雨の時など)や、どんな天候の時に起きるかも重要な情報です。

  

  

2. 過去の防水工事履歴(何年前に、どんな工法で行ったか)

  

既存防水の種類がわかると、相性の良い工法を選ぶことができます。

  

たとえば、既存がゴムシート防水の場合、ウレタン防水との相性が悪いため、全面撤去が必要になることもあります。
逆に、塩ビシートの上から塩ビシートを重ねる「かぶせ工法」なら、撤去の手間とコストを省けます。
過去の工事の記録(見積書、完了報告書など)があれば、ぜひ共有してください。

  

  

3. 建物の図面(あれば非常に助かります)

  

屋上の構造や排水経路、設備の配置、防水層の範囲などが把握できると、より的確な提案ができます。
図面がない場合でも調査は可能ですが、あるとより精度の高い計画が立てられます。

防水工事に限らず、全ての工事においてとても大切になってくるのが施工管理者とオーナー様、管理会社のご担当者との密な情報共有です。
現段階で「わかっていること」もしくは「わからないこと」だけでも教えていただけると、とても助かります!

  

  

調査結果をもとに見積りを作成

  

調査が終わったら、その結果をもとに見積りを作成します。

  

  • ◎どの工法が適しているか
  • ◎どのくらいの面積を施工するか
  • ◎下地補修はどの程度必要か
  • ◎工期はどのくらいかかるか

  

こうした内容を、できるだけ具体的にお伝えします。

  

②目的に合わせて「工法」と「仕様」を決める

調査結果をもとに、どんな工法で改修していくかを決定します。ここで大事なのは、「建物をどう使っていきたいか」という目的です。
たとえば、

  

  • あと20年以上、賃貸経営を続ける予定
    → 耐久性の高い塩ビシート防水や、通気緩衝仕様のウレタン防水を選び、長期的な安心を確保
  • 5年後に売却を検討している
    → 最低限の補修で雨漏りを止め、コストを抑えた仕様に
  • 管理会社の大規模修繕計画の一環
    → 次回の修繕タイミング(12〜15年後)まで持つ標準仕様を選択

  

同じ築年数の建物でも、目的によって「どこまでやるか」「どんな材料を使うか」が大きく変わってきます。

  

改修工事でよく採用される2つの工法

  

塩ビシート防水

  • ◎耐久性が高く、15〜20年の長期保有に向いています
  • ◎工場製のシートを使うため品質が安定しています
  • ◎短工期で仕上がりやすいのも特徴
  • ◎屋上の平場(広い平らな部分)に適しています
セントアミー東三国防水

  

  

  

ウレタン塗膜防水

  • ◎液体を塗るタイプで、複雑な形状にも対応できます
  • ◎バルコニーや設備まわりなど、細かい納まりが必要な場所に強い
  • ◎塗り重ねて防水層を形成するため、下地の状態が重要
  • ◎密着工法と通気緩衝工法の2種類があります
エスポアール尼ヶ辻防水

  

仕様決定が後のトラブルを防ぐ

  

仕様決定の段階でしっかり方向性を決めておくと、後のトラブルも少なくなります。

  

「とりあえず安く」という判断が、数年後に膨れや剥がれといった不具合として現れ、結局また工事が必要になる…というケースは、実は少なくありません。

  

目的に合った適切な仕様を選ぶことが、長い目で見たコスト削減につながります。

  

③ 契約・着工前の準備

契約から工程表の作成へ

  

仕様が決まったら、見積を提出し、契約へと進みます。
契約後は、全体のスケジュールを示した工程表を作成します。工程表には、以下のような情報が含まれます。

  

  • ◎着工日・完了予定日
  • ◎各工程の実施日(下地処理、防水層施工、トップコート塗布など)
  • ◎音や振動が出る日、においが出る日
  • ◎雨天時の予備日

  

この工程表をもとに、入居者の皆様へ工事の内容をお知らせしていきます。

  

防水工事の大きな特徴は、作業が屋上などの上階で行われるため、入居者や近隣への配慮が欠かせないということです。
特に、住居として使われているマンションでは、生活への影響を最小限に抑えるための事前準備が重要になります。
工事が始まる前に、入居者の皆様へしっかりと情報をお伝えすることが、トラブル防止の第一歩です。

  

告知の内容と掲示期間の目安

  

  • 工事の1週間前を目安に、全住戸のポストへ案内チラシを配布
    工事の期間、作業時間、騒音や振動が出る日程、においの有無などを具体的に記載します
  • エントランスやエレベーターに掲示
    日々目にする場所に掲示することで、「知らなかった」を防ぎます
  • 最上階の住戸には特に注意が必要
    塩ビシート防水の機械固定工法では、アンカーで穴を開ける作業があり、音や振動が直接伝わりやすいためです

  

住民の方、お一人おひとりのご意見を伺うことは難しいですが、オーナー様や管理会社側から「単身者が多い物件」「ファミリー層も多く小さいお子さんも多い」などの前情報をいただければ、工程を調整するなどの対応も可能ですので、ぜひ共有いただきたいです。

また、実際のクレームの多くは「聞いていなかった」「知らされていなかった」という不意打ち感から生まれるもの。
「どの期間に何が起きるか」を先に伝えておくだけで、体感としての不満が大幅に減ります。こうした事前の周知があるかないかで、工事中のトラブルは本当に大きく変わります。

  

番外編:足場・仮設工事の準備について

基本的に屋上まで続く階段がある場合は、足場の設置は不要です。
ただ、建物の形状によっては、足場を建てる工事も行う場合があります。
足場が必要なケースとしては、

  

  • ◎屋上に内部階段でアクセスできない建物
  • ◎手すりが低く、安全に作業できない場合
  • ◎外壁との取り合い部分を施工する場合

  

施工上、安全性の確保が難しい場合も、部分的に足場を組むこともあります。

  

その他の準備

工事に必要な準備として、以下のようなものがあります。

  • 資材置き場の確保
    防水材料やシート、工具などを保管するスペース
  • 仮設トイレの設置
    長期の工事では、作業員用のトイレを敷地内に設置することもあります
  • 作業用の電気・水道の提供
    高圧洗浄や電動工具の使用に必要です。事前に使用可能な場所を確認させていただきます

  

こうした準備を整えることで、工事がスムーズに、かつ安全に進みます。

  

実際の施工の流れ

さて、いよいよ実際の工事に入ります。
防水工事は、一見シンプルそうに見えて、実際は細かい段取りの積み重ね。大きく分けると、以下の3つのステップで進んでいきます。

  

① 下地処理

  

まずは、古い防水層や汚れを除去し、ひび割れや不良部を補修します。
掃除やケレン(削り作業)、劣化部分の補修といった工程をしっかり行わないと、新しい防水層が密着しません。

  

また、防水工事は「既存の防水層」の劣化具合で工事の規模が大きく変わります。
既存防水層の膨れや浮きがある場合は、その部分を撤去して補修します。中途半端に残しておくと、新しい防水層にも影響がでしまうので
特に、アスファルト防水の膨れや、ウレタン防水の部分的な剥がれなどは、入念にチェックします。

  

防水工事でよく言われるのが「下地が命」という言葉です。

どれだけ良い材料を使っても、どれだけ丁寧に防水層を作っても、下地がしっかりしていなければ、すぐに不具合が出てしまいます。
逆に言えば、下地処理さえきちんとできていれば、防水工事の8割は成功したも同然です。

  

  

②防水層の施工

  

下地を整えたら、選んだ工法に沿って防水層を施工していきます。

  

ウレタン防水の場合

  1. 1.プライマー(下地調整材)を塗布
    防水材と下地を密着させるための接着剤のような役割です
  2. 2.ウレタン防水材を1層目として塗布
    液状の防水材を、ローラーや刷毛で均一に塗り広げます
  3. 3.乾燥後、2層目を塗布
    仕様によっては3層塗ることもあります。規定の膜厚が確保できているかを確認しながら進めます
  4. 4.立ち上がり部分や端部の処理
    壁との取り合い、ドレン周り、配管周りなど、水が入り込みやすい箇所は補強布を入れて念入りに施工します

液体を塗り重ねて防水層を形成するため、塗りムラが出ないよう、職人の技術が問われる工法です。

カグカスビル修繕事例

  

  

塩ビシート防水の場合

  1. 1.下地に緩衝材(マット)を敷く
    既存の防水層と新設シートの間に緩衝材を敷いて、干渉を抑えます
  2. 2.固定用のディスクを躯体にアンカー固定
    点で固定していくため、下地の影響を受けにくいのが特徴です
  3. 3.塩ビシートを敷設し、熱風で溶着してつなぎ合わせる
    工場で作られたシートを使うため、品質が安定しています。溶着の温度や圧力は規定があり、それに従って施工します
  4. 4.端部を押え金物で固定し、シールで仕上げる
    立ち上がり部分や役物(ドレン、配管など)周りの納まりを丁寧に処理します
  5. 5.溶着部の確認
    シートの接合部が正しく溶着されているかを確認します

  

どちらの工法も、メーカーの仕様書に基づいて厚みや仕上がりを厳密に管理します。

  

③トップコート塗布(ウレタン塗膜防水のみ)

  

最後に、紫外線や風雨から防水層を守るためのトップコートを塗布します。
特にウレタン防水は、紫外線に弱いため、トップコートで保護することが必須です。

  

塩ビシート防水は、シート自体が紫外線に強いので、基本的にトップコートは必要ありません。
ただ、年数が経つと少しずつ劣化してくるため、状態を長く保つための“延命メンテナンス”としてトップコートを塗る場合もあります。

  

  

➄検査・引き渡し

施工が完了したら、いよいよ検査です。検査では、目視での確認に加えて、以下のようなチェックを行います。

  

  • 膜厚測定
    規定の厚みが確保できているかを専用の測定器で確認します
  • 散水試験
    実際に水を流して、雨漏りが止まっているかを確認します。特に、雨漏りが発生していた箇所は念入りにチェックします
  • 溶着部の確認(塩ビシートの場合)
    シートの接合部が正しく溶着されているかを、ピール試験(引っ張って確認)などで検査します
  • 端部・立ち上がり部分の確認
    水が入り込みやすい箇所が、きちんと処理されているかを確認します

  

問題がなければ、引渡しとなります。

  

⑥アフターメンテナンスの重要性

防水工事の依頼の約8割は、「雨漏りしてから」です。
管理会社が入っている建物であれば、定期点検や大規模修繕のタイミングで対応することが多いですが、 個人オーナーの場合は屋上に上がる機会も少なく、実際に雨漏りして初めて劣化に気づくケースがほとんどです。 雨漏りを放置しておくと、壁を伝って雨水が入り込み、内装まで傷んでしまうことも。

  


  

上記のような状態になってしまうと、防水工事だけでなく、内装の改修費用まで負担しなければならなくなります。

  

防水層は、紫外線や気温変化などによって、少しずつ劣化していきます。そのため、10〜15年ごとを目安に専門業者による点検・改修を行うのが理想です。 状態が良ければ、全面改修ではなく、保護塗料を塗って防水層を延命するメンテナンスでも十分対応できます。

  

正しいメンテナンスを行えば、防水層の寿命を3〜5年延ばすことも可能。しかも、フル改修に比べて費用は1/3〜1/2程度に抑えられる場合もあります。 

  

人間も健康診断をして異常がないことを確かめますよね!
建物も同じで、定期的に状態を確認し、小さなメンテナンスを積み重ねていくことで、大掛かりな工事を先延ばしにでき、結果的にコストを抑えながら建物を長く守ることができます。

  

防水工事は「予防」の工事

  

防水工事は、その名の通り「水を防ぐための工事」です。
だからこそ、きちんと防げてはじめて、その価値が生きてきます。

  

雨漏りが起きてから慌てるより、早めに状態を見て手を打っておくほうが、建物にとってもお財布にとっても安心です。
建物の寿命を延ばし、資産価値を守っていくためにも、専門家による定期点検やメンテナンスを、ぜひ“習慣”として取り入れてもらえたら嬉しいです。

  

最後に

防水工事をご検討中の方へ

  

「うちの建物、そろそろ防水が必要かも…」と感じたら、まずは現地調査からスタートしてみてください。

  

建物の状態を正確に把握することが、最適な防水工事への第一歩です。無駄な工事を避け、本当に必要な工事だけを行うことで、コストを抑えながら建物を長く守ることができます。

  

ご不明な点やご相談がありましたら、お気軽にお問い合わせください。

  

  

…とはいえ、防水工事って、いざ頼むとなると費用もそれなりにかかるので、「できることなら自分で何とかできないかな…」と感じる方も多いと思います。

  

実は防水は、プロの工事が必要な部分と、施主さんでもできる「簡単なメンテナンスの範囲」があるんです。
そのイメージをつかんでもらうために、社長が実際にやってみた防水DIY動画を特典としてご用意しました。

  

「どんな作業なのか知りたい」「まずは自分でできることを確認したい」という方は、ぜひ気軽に見てみてください。

  

  

  

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プロフィール

嘉数智彦

塗装20年、防水10年と、この道30年の現場経験を持ち、現在は施工管理を担当。

これまで培ってきた豊富な経験と専門的な知識を活かし、建物の状態を的確に見極めたうえで、最適な施工品質の維持・向上に努めています。
また、職人時代から変わらず「現場はチームでつくるもの」という思いを大切にし、職人・管理者・お客様が安心できる現場づくりを心がけています。

塗装・防水工事をはじめとする建物修繕の分野で、今後も「確かな技術」と「誠実な対応」を通じて、長く信頼される仕事を続けてまいります。

保有資格:一級建築施工管理技士、一級塗装技能士、一級防水技能士、雨漏り診断士

株式会社ミツケン

大阪と東京を拠点に、マンション・ビルなどの大規模修繕工事・改修工事を手がける専門会社。
建物の調査・診断から、施工、アフターフォローまでを一貫して行っています。

オーナー・管理会社・入居者、それぞれにとって安心できる修繕を目指し、施工会社としての視点に加え、大家さん・CPM(不動産経営管理士)の視点から、本当に必要な工事だけをご提案できることがミツケンの強み。
長年のご縁に支えられ、リピート率は80%超。これからも誠実で正直な姿勢で、大家目線の安心できる修繕を行ってまいります。

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